大信州酒造 下原 多津栄 大杜氏 逝く

大信州酒造に伝説の杜氏 下原 多津栄(しもはら たづえ)氏がの平成20年までいらっしゃいました(当時の現役杜氏最高齢、91歳)。平成29年に100歳を迎えた大先輩です。
下原氏は酒造りの神様と言われています。16歳で酒造りの道に入り現役一筋75年。
その甲斐あって全国新酒鑑評会での金賞受賞も毎年のように又、関東信越国税局鑑評会では常連の入賞杜氏として県内の杜氏仲間の間では指導的な立場にありました。

長野県の杜氏衆のシンボル的な存在であり、酒造りの生き字引として県下の名だたる杜氏たちが自分の仕込んだ酒を携えて下原氏に利き酒してもらい意見を請い、下原杜氏が利き酒すると、一緒にその酒を仕込んだかのように醸造過程を言い当てたと言います。

下原杜氏の元気な姿は本当に驚きでした。

晩年、90才を越した頃でも若い蔵人と同じように米を担いで階段を上がります。とても優しげな眼差しで、しかし現場ではピーンとした空気をかもし出します。その下原杜氏と握手をすると更に驚きます。まるで赤ちゃんの手の様に柔らかくしっとりしています。
多少耳が遠くは成っていましたが、かくしゃくとして、本当に良い爺さまです。

引退後、故郷の長野県小谷村で野菜作りなどしながらゆっくりと過ごされていました。
今でも全国に下原杜氏のファンが沢山いると聞きます。(と言う私もその一人です)

先日、大信州本社に所用で電話した際、関沢氏から「実は8月に下原大杜氏がお亡くなりになられました」とお聞きしました。御年103歳、老衰での大往生でした。

たか田日本酒勉強会《翁乃会》にとっても下原氏との関わりは深く、会員証の翁乃会の文字は下原氏にお願いして書いてもらったものです。

大信州では下原氏が今夏、新蔵の移転を見届けて又、今秋の長野県品評会吟醸部門に純米大吟醸で出品、前代未聞の主席を受賞。まさに下原氏の偉業の成果の結晶だと感じているそうです。

まさに現在の信州地酒の恩人といえる方でした。

私も個人的に何度もお会いして、あの温かな笑顔と人懐こい笑い声、本当にお世話になりました。

90歳を超えても現役杜氏として豊野蔵の現場を仕切り今の大信州の基礎を高く築かれた下原氏に唯々感謝の気持ちでいっぱいです。

ご冥福をお祈りしますとともにご報告いたします。

※今は亡き下原氏の愛と感謝の結晶 翁下原 大吟醸 2008

※2008/02/16 大信州豊野蔵にて 下原杜氏(左)とたか田お父さん(右)