【日本酒塾】 大矢孝酒造

◎旨し酒を醸す蔵元のご紹介(たか田酒の会開催蔵元)
※は私的感想です。

・大矢孝酒造  神奈川県 代表銘柄「昇龍蓬莱」
神奈川県北部の山間部に位置する、愛甲郡愛川町。周囲を山々に囲まれた盆地で、冬の冷え込みは県内でも一番というこの地に、日本酒ファンにぜひ覚えてもらいたい新進気鋭の酒蔵があります。昇龍蓬莱を造る、大矢孝酒造です。
酒造業としての大矢孝酒造の歴史は、江戸後期の文政13年(1830年)が始まりですが、大矢家の家系図をひもとくと、初代当主は戦国時代にまで遡ります。
大矢孝酒造の母屋には、たいへん立派な木が2本立っています。初代当主はこの地に住み始めたときに、家が栄えるようにとケヤキを家の周りにたくさん植え、その当時の木が樹齢400年を超える年輪を重ね、今日も蔵元を見守り続けています。大矢孝酒造の8代目蔵元、大矢俊介氏。大矢家の初代当主から数えて20代目にあたります。
大矢さんは昭和51年生まれの若い蔵元。先代が倒れたことがきっかけで、平成12年に後を継ぐ形で蔵入りする事になるのですが、当時の大矢孝酒造は普通酒ばかり造っていて、酒造り自体を全く面白く感じられなかったそうです
そんな大矢氏に平成17年、大きな転機が訪れます。大学の先輩にあたる「丹沢山」の蔵元に勧めてもらった「あるお酒」との出会いが、大矢さんの気持ちを大きく動かしました。
『これはお燗で飲んで素晴らしいお酒だ!普通酒だけじゃなく、こんなお酒を造ってもいいんだ・・・!』 そのお酒とは、現在も酒通の間で評判の高い、埼玉県の「神亀」でした。
「昇龍蓬莱」とは、大矢氏が全国ブランド向けに立ち上げた銘柄で、地元向けの銘柄は「残草蓬莱」を展開しています。

と在る酒販店のご主人から教えて頂きました・・・
新規お取り引きの商談として蔵訪問した際には、どこの蔵でも必ず利き酒をさせてもらいます。今回も利き酒をするお話になったのですが、「それじゃあ行きましょうか。」と言われて連れて行ってもらったのは、蔵の中ではなく、蔵から歩いてすぐの焼き鳥屋でした。
『蔵の中でやる利き酒って、正直微妙だと思っているんです。普通お酒を飲む時って、料理を食べながら、誰かとしゃべりながら飲むじゃないですか。お酒を評価するレギュラーの環境って、実はこういう環境じゃないのかなって思っているんです。』と大矢さんは説明しました。
懇親会としてお料理をセッティングしてもらうことは何度もありましたが、利き酒自体をこういうスタイルで行なう蔵元は初めてでした。
また、商品ラインナップを紹介してもらったときに「今は20BYや21BYという、若いお酒しかご用意出来ないんですけど・・・」とお話をされたのも印象的。1年そこそこの熟成では、お酒は全然若いとの考えです。
そんな「昇龍蓬莱」の目指す酒造りは、テイスティングの一口だけで満足して終わるようなお酒ではなく、『今日飲んだこのお酒、おいしいね。明日もまた飲みたいね。』と思ってもらえるようなお酒を造りたい、ということです。
まだ若い蔵元ですが、これらのエピソードから強い信念と確固とした哲学をお持ちであることが伺えるではないでしょうか。

大矢孝酒造の酒造りの規模は小さく、製造量は年間200石~300石ほど。大矢氏をはじめとして平均年齢30代の若い蔵人4人が一丸となって作業にあたります。

※大矢氏は一見するとサッカー選手のヒデに似た風貌。語り口は静か、しかし酒造りの話になると熱くパワフルになります。大矢氏の酒は体と心に沁みてくる、実に体液に近い。今流行りの香りが高く味口の濃い酒ではありません。どちらかと言うと地味系の酒。しかし飲むと食事と抜群な相性で料理も酒も旨くなる。醸している場所もこれぞ酒蔵と思います。大木があちらこちらに天に向かって伸びすぐ側に流れる川では鮎釣りが出来ます。自然豊かで醸す人も素敵な蔵です。
全国的にはまだまだ無名の酒ですが、埼玉の「神亀」との共通点が見られる「燗酒向けの熟成酒」というジャンル。そして、自らのスタイルを確固として打ち立て、抜群のチームワークで酒造りに向かう大矢孝酒造を応援したいと思います。