【日本酒塾】不老泉 蔵紹介

◎蔵元訪問  上原酒造  代表銘柄《不老泉》

 

不老泉を醸す上原酒造は琵琶湖の西岸、滋賀県高島市新旭町にあります。

創業は1862年。

年間生産高が400石ほどの小さな酒蔵ですが、酒に対するこだわりは全国の酒蔵の中でも屈指の物。
不老泉1  不老泉2

 

以前から不老泉の事は知っていました。古来、日本酒造りの原点を忠実に再現して現代の日本酒界に挑戦しているチョット変わった蔵元・・なお更一度は訪れたいと思っていました。

 

蔵のある高島市は琵琶湖に面しており古来、稲作が盛んな場所。蔵の周りは田んぼだらけです。青々と茂った稲が琵琶湖からの風に吹かれていました。

お忙しい中、お時間頂戴し丁寧に御案内頂きましたのは上原社長様です。

代々酒造りを伝承してきた母屋は時間が止まった様に静かでコンコンと湧く仕込み水の音だけが響いていました。試飲用の冷蔵庫には沢山の仕様の違う酒が鎮座ましており仕事への情熱が伝わってきます。

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滋賀県は私の母の故郷です。今でも伯母、従兄夫婦が東近江市にて農業を営んでおります。

今回、お墓参りの為に実家に行ったついでに時間を作り蔵元にアポを取り訪問させて頂きました。

社長様、お母様にお会いし、蔵内をご案内頂き古来の酒造りの姿を感じてきました。そして、現代文明の力である電気を最大限利用して冷蔵倉庫を何基も持ち、搾り上がった生原酒を半年以上、物によると3年以上冷蔵熟成して味が最大限乗ったところで出荷されています。

 

蔵元が力説していました・・

「甘口、辛口だけがお酒の味わいではありません。旨口という味わいもあります。

口に含んだ瞬間、米の持つコクと甘さが口の中に広がり、あと口に爽やかな余韻を残して、のど元を過ぎ、そしてサッと消えていく。これが本当の美味しい酒なのです。

上原酒造ではこのような酒を造るために独自の手法による全国でも類を見ない山廃仕込、良い所だけをしぼる木槽天秤しぼりを続けています。
また、木桶で造る木桶仕込みも復活させました。当社の山廃仕込みは酵母添加を一切いたしません。
昔ながらの旨口のお酒を手造りで続けています。これが上原酒造のモットーです」と。

 

この地で酒を造って150年以上。

米の持つコクと甘さをひきだすため山廃仕込みにこだわり、全国でも2蔵しか行っていない、全量木槽天秤しぼりを実践する。

見ると聞くとでは全く違います。とにかく驚きました。天秤棒の太くて長いこと。搾りの際には重しとして250kg程の石を下げるのだとか。

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「田舎の家が1軒建ちますよ!」という高価な大型精米機(2千万円強)。県内の39蔵中3社しか持っていないという。品種やその年の出来によって違う米の状態にあわせ、自分の手で行う精米がその後の工程に影響する部分も多いという。精米後の枯らしも自家精米ならではの利点があり、これがその後の洗米、浸漬、蒸し等に良い影響をもたらす。つまり良い麹ができることで良い酒造りがスムーズに行えるという好循環のために小蔵としては異例とも言える自家精米機の導入になったとのこと。
「場所も取るし、年間で約4ヵ月しか稼働しないのにもったいない」と自嘲しながらも良い仕事をすると胸を張る自慢のマシンだ!

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高価な精米機と、正反対なのが水。
比良山系の水が琵琶湖に流れ込むこのあたりは、
5mも掘れば水が湧き出る。この良質の軟水は全くのタダである。

日本海からの厳しい北風が比良山系から吹き降ろす「比良おろし」

冬場の寒さは厳しく毎年30cm程の積雪があります
その伏流水(軟水)が1年を通じ13~15℃に保たれ、蔵にコンコンと湧き出る天然水はポンプで汲み上げている物ではなく本当に湧き出してくるのです。そんな酒造りに最適な軟水・・鉄、マンガンなどの不純物がなく山廃造りにとても合う水と社長。代々この水を酒造り、飲料水、洗濯や歯磨きなどの生活用水に至るまで使って来ているとお母様。コップに汲んで頂き試飲致しました・・とてみ柔らかくうっすら甘味を感じる様な気がしました。良い水です。

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この蔵の最大のこだわりは山廃仕込みです。上原酒造の山廃仕込みは酵母添加をしません。

他の蔵で当然のこととして行われている、人工培養された酵母を添加するという手法を一切使わず、蔵付酵母(天然酵母)が自然に酒母に入り育つのをゆっくり待ちます・・漫画《もやしもん》の世界です。通常の2倍近くの労力と時間を要する山廃造りを主力とし、生産量の8割を占めます。
酒造りをご存知の方が聞くと「えっ!?」と驚かれるのではないでしょうか。

本当なのです。江戸時代なら有りですが今どき、こんな手間のかかることをしている蔵が本当にあるのです。おまけに人の目が行き届く700kg~900kgの小仕込による造りが中心です。

 

醪(もろみ)からお酒を搾りだす作業に「木槽天秤しぼり」を採用。石の重みでじっくりと加圧しながらお酒を搾るため、ヤブタ(自動油圧圧搾機)だと1日ですむ作業が3日かかり、しかもヤブタの85%しか搾りきれない。酒袋の洗浄などもふくめ、機械でのしぼりに比べると手間がかかることだらけだがその分、雑味の無い旨い酒だけが搾れる。正に魂の酒。

 

「大変なんですけど、木の甑(こしき)で蒸した米は立っているんですよ!寿司屋さんもシャリをを作るときに必ず木の桶を使って酢とご飯を合わせますよね。木の桶が余分な水分を吸ってくれるのでシャリが光って旨いんです。これと同じで甑が木製だと結露が起きてもこの水分を木が吸うので蒸し米のどの部分でもサッパリ蒸し上がり放冷から先の作業がとても進め易くなります」と手間がかかることを楽しそうに語る社長様。
蒸し米の仕込みにまで木桶を使う蔵は非常に珍しい。夏場は写真のように木の間に隙間ができる。

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山田錦、玉栄、雄町、渡船などのほか、幻といわれた亀ノ尾など6~7種の米を使い、ブランド名も不老泉、寿扇、杣(そま)の天狗、亀亀覇など10種以上。
これに、生、にごり、搾るタイミングなどでも商品化。舌の肥えたファン達の期待に応えるため労力がかかるが、小ロット多商品化に挑む。個性を商品化して飲み手に挑戦している。

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ここで造られるほとんどの酒が熟成し、味が安定するまで時間がかかる山廃仕込み。そのため、巨大な冷蔵倉庫がたくさん必要となります。

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木槽の天秤棒から樽に登るはしごまで、木製品には柿渋を塗る。丁度、うかがった翌日に蔵人総出で柿渋を塗るとのことでした。大切な道具たちの劣化を防ぎ、長持ちさせるための知恵です。

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今回、長年の夢であった不老泉を感じることが出来、しっかりと仕入もさせて頂きました。

追々、メニューに載せていきますのでお楽しみにして下さい。

 

最後に、滋賀県の底力を感じる事が出来て大変に勉強させて頂きました。

 

蔵元に感謝です。