日本酒塾

《冷おろし》についての考察

「冷卸し(ひやおろし)」とは、
日本酒の業界用語としては本来、春先に搾った新酒を「火入れ(加熱処理)」し、桶に囲って夏の間にひんやりした酒蔵の中で貯蔵し秋まで程よく熟成させて、外気と蔵内の温度が同じになる秋口の頃、2度目の火入れをせず(涼しくなり2度目の火入れをせずとも品質が保てるので)冷やのまま樽に卸したお酒のことをいいます。
従って現在の「生詰」に相当する、という説が一般的です。

「秋の季節酒」と言われ、秋にまろやかな旨味を堪能できるお酒として知られています。
搾りたて時にはフレッシュで荒々しい新酒が、熟成と共に円やかで膨らみのある味わいになります。

日本酒は通常、搾り上がった後の貯蔵前と瓶詰め前の2回の火入れ(加熱殺菌)を行いますが、『冷おろし』の場合は貯蔵前に1度だけ火入れを行うだけで、出荷時は火入れを行いません。

その昔、秋の訪れと共に、程よく熟成したこの酒を、火入れせずに「冷や」のまま、貯蔵用の大桶から出荷用の木樽へと移(おろ)したことから「冷移(ひやおろし)」と呼ぶようになりました。
また、「生(ひや)で瓶詰めをする」こと、「秋から冬の冷える季節に出荷される」ことからも『冷移(ひやおろし)』と呼ばれているようです。

ちなみに、夏を越して酒質が向上する酒を、「秋あがり 、秋晴れ」と呼び、逆に酒質が低下する酒を「秋落ち」と呼んでいます。

現在、冷おろしの定義が崩れてきています。
私なりに感じていることを記します。

冷おろしの出荷時期について。
全国様々に蔵元があり、冷おろしを8月中旬から出荷する所もあります。
酒質設計は申し分ないのですが、熟成に難がある酒が存在している事も事実です。
ましてや、さすがにお盆過ぎでは季節感が全くない。
冷おろしには秋の酒という明確な定義と伝統がある。
真夏に季節の先取りをすることは如何なものかと思います。
でもこの酒質の良い酒を買い控えていると、市場からはスグ無くなってしまう。
ひとまず買い入れて、店の冷蔵庫にて追熟のため冷蔵貯蔵をさせなくてはならない。
これもまた悲しい。日本酒に精通した飲食店としてはどうすればいいんでしょうか・・・

今年9月始めに、と在る酒蔵の秋の酒についてのコメントが目に付いた。
毎年この時期に出る秋酒で出る度に高評価な酒。
コメントしていたのは地酒に精通している酒販店の店主、かなりの利き酒名人。
しかし今年のその酒は「あれっ!!どうしたの?いつもの感じとは違ってるじゃん!毎年楽しみにしているのに今年の酒は・・・」  私が思うに酒質を変更したか、熟しの度合いが足りていないのではと思う次第です。
この様に、秋まで熟成を待ってから出す酒のはずが十分に味乗りしていない時期に早出しするのは
本来の冷おろしとは違う酒ではないかと思う物も流通している事実。
本来、酒本位であるべき熟成を出荷日が決まっているからと言って早熟の状態で無理無理出すのは酒の面を見ていないと思わざるを得ない。
仕事柄、たくさんの蔵元、酒販店から冷おろしの案内やサンプルを頂く事もありますが、その中でも「現在の所、酒質が固めでお買い求めいただきましたら冷蔵庫で追熟して頂くと更に味わいが深くなります…」と言ったコメントが付いてくる酒があることも記しておきたい。

蔵元から聞く所によると、その昔は外気温が20℃を下回るころに熟成が深まり冷おろしとして喜ばれたのだそうです。
そうは言っても現在は、製造技術、冷蔵技術、貯蔵方法等、昔と格段に違うのも確かです。

先日、日頃お世話になっています酒販店の若旦那にお聞きしました。
「当店でも沢山の蔵元とお付き合いがありますが、各蔵ごとに冷おろしの考え方が違っています。特に、狙っている冷おろしの酒質はマチマチ。冷おろしの酒質設計に重要なのが熟成させる時の温度。搾ってから半年以上の熟成が必要な冷おろし故。ある蔵は昔ながらの常温で、ある蔵は20℃の冷蔵、別の蔵は5℃で管理。確かに米の種類によっては醸造中に旨味が溶けだし過ぎたり、溶けが鈍く酒質が固い等の事もあり夏過ぎまでの熟成をどう管理するかで冷おろしとしての味わいに大きく関わってきます。つまり夏真っ盛りに冷おろしとして出荷してくる酒の中には、早熟の物もあり、言い換えれば早く飲んでもらいたいという蔵の意向がある様です。又、熟成が少々足りなくても早出しする事で市場での早取りを助長して蔵の在庫を少しでも無くしたいという思いもあるのではないですかね。本来なら朝晩涼しくなった頃に秋刀魚の塩焼きをつまみに旨い冷おろしを飲みたいですよね」と。

冷おろしは、重陽の節句(9月9日)にあわせて出荷する酒蔵と日本酒の日(10月1日)にあわせて出荷する酒蔵の二つが主流です。
歴史的には重陽の節句がいいと思います。が、これは旧暦の暦の場合です。
今年の場合、旧暦9月9日は新暦10月9日になります。
つまり、冷おろしは明治時代前は新暦の10月頃に旨し酒として民衆に支持されて楽しまれた酒なのです。
参考までに、日本酒造りの歴史は西暦700年頃には記述があり、以後、様々な試行錯誤と共に酒造技術は進化して今に繋がっているのです。

当店とお付き合い頂いております、とある大手地酒専門店では、10月1日を持って冷おろしの解禁日とされています。

「冷おろし」は日本酒ならではの米本来の旨みを活かし酒の味わいの骨格を形成する酸もまろやかに口中に広がります・・・
新酒時の華やかな吟醸香や荒々しい味わいも落ちつき、コクと円やかさのある熟成から来る旨さ。
早秋、晩秋と熟成によりお薦めするお酒は異なる為、お勧めする酒の選定には気を配ります。
たか田では秋酒の味わいと旬のお料理とのコラボをお楽しみ頂きたいと思います。
冷おろしは、冷酒だけでなく常温~お燗にしてお召し上がりいただくとより美味しくお召し上がりいただける物も御座います。

以上の事を考え、たか田ではきちんと味乗りした酒を見極めて、古来からの冷おろしの名に恥じない物だけをお出ししたいと思います。

酒が旨いという事はどう言う事なのか?
味わいが増すということで飲み口が良くなり、喉ごしが良くなり、満足感を得られ幸せと感じる。

その冷おろし、いま本当に飲みごろですか?
更に熟成させて旨し酒になってから飲みませんか?

この時期になると 常々、そんな事を思っております。

たか田ではお彼岸の入りの頃より旨し冷おろしのご紹介を致します。
現在選定中の冷おろしは約30銘柄ほど。どの酒も円熟の旨し酒と自信を持ってお勧め致します。

どうぞ御期待下さい。